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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)23号 判決

控訴人 東野與三松

被控訴人 亡高橋清一訴訟承継人 高橋信子 外二名

主文

本件控訴及び当審における新たな予備的請求を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)(イ)(第一次的請求)

被控訴人高橋信子、同鈴木美記子、同木村潔は、控訴人に対し、原判決添付別紙第一物件目録記載の採掘権について、採掘権取得の登録手続をせよ。

(ロ)(第二次的請求)

1 被控訴人木村潔は、被控訴人高橋信子、同鈴木美記子に対し、原判決添付別紙第一物件目録記載の採掘権について、被控訴人木村潔、同高橋信子、同鈴木美記子の共同名義から被控訴人高橋信子、同鈴木美記子の名義に採掘権取得の登録手続をせよ。

2 被控訴人高橋信子、同鈴木美記子は、控訴人に対し、同第一物件目録記載の採掘権について、昭和三一年八月の譲渡契約を原因とする採掘権取得の登録手続をせよ。

(3)(当審における新たな予備的請求)

被控訴人木村潔は、控訴人に対し、原判決添付別紙第一物件目録記載の物件について、採掘権移転の登録手続をせよ。

(4)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決。

二、被控訴人ら

本件控訴及び当審における新たな予備的請求棄却の判決。

第二、当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、次につけ加えるほか、原判決事実摘示(ただし、原判決書一一枚目表八行目中「第一九号証」の下に「の五」を加える。)のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(事実上の陳述)

一、控訴人

(1)  訴訟承継関係

(イ) 第一審被告高橋清一は、昭和五〇年八月二九日死亡し、被控訴人高橋信子、同鈴木美記子において、相続により、亡高橋清一の財産に属した一切の権利義務を承継した。

(ロ) 被控訴人高橋信子、同鈴木美記子の後記二の(1) の(ロ)の主張はすべて争う。共同鉱業権者は組合契約をしたものとみなされるけれども、組合員全員はその組合の管理執行権があり、その限りにおいて対外的にも組合員は組合を代理して法律行為を行なう権限を有し、組合と組合員とは組合の負担する債務につき併存的にこれを負担するのみならず、組合員の責任は無限責任であつて、組合員がその脱退する前に負担した組合債務については、組合財産による責任とともに併存的に負担した個人責任は脱退により消滅しないものであるから、組合員であつた第一審被告高橋清一が死亡により組合を脱退したとしても、控訴人が本訴において主張する請求権は、右高橋が生存中に組合員としてこれを負担したものであり、組合契約の本質上右高橋の承継人である被控訴人高橋信子、同鈴木美記子は右高橋清一の債務を負担しなければならない。

(2)  第一次的請求の原因の予備的追加

仮に、これまで主張した第一次的請求の原因が理由のないものと認められたとしても、控訴人は本件採掘権を次のように時効により取得した。

(イ) 控訴人は昭和二三年一二月二三日から現在まで自己のためにする意思をもつて平穏かつ公然に本件鉱区を占有し、その占有の始めた善意無過失であつたから、右鉱区につき本件試掘権の設定登録がなされた昭和二七年八月二九日から一〇年間占有したから昭和三七年八月二八日の経過により本件採掘権を時効により取得した。

(ロ) 仮に、控訴人が右の占有を始めるにあたり善意無過失ではなかつたと認められたとしても、前記昭和二七年八月二九日から二〇年間平穏かつ公然に本件鉱区を占有していたから昭和四七年八月二八日の経過により本件採掘権を時効により取得した。

(3)  当審における新たな予備的請求の原因

(イ) 共同鉱業権者が組合契約をしたものとみなされ、組合員の組合の管理執行権能、組合員の責任、組合員脱退前の組合の債務の法律関係は、前記(1) の(ロ)で主張したとおりである。

(ロ) 第一審被告高橋清一の右組合員としての持分は、昭和五〇年八月二九日同人の死亡により、そのすべてが組合に帰属した。

(ハ) 組合員は組合財産に対し直接管理処分する権能を有し、かつ組合を代理する権能を有するものであるから、右高橋は死亡前本件鉱区を処分する権能を有し、かつ組合代理権を有していたから、この組合財産の処分には民法六七五条により当然被控訴人木村潔も連帯して債務を負担しなければならないところ、右高橋は昭和四三年一二月をはじめとしてたびたび控訴人に対し本件採掘権を譲渡したものであるから、被控訴人木村潔は控訴人に対し本件採掘権の移転登録をする義務がある。

二、被控訴人ら

(1)  訴訟承継関係

(イ) 控訴人主張の前記(1) の(イ)の事実のうち、被控訴人らが第一審被告高橋清一の有していた本件採揺権に関する権利義務を承継したとの事実を除くほかの事実は認める。

(ロ) しかしながら、第一審被告高橋清一は生前被控訴人木村潔と本件採掘権につき共同鉱業権者であつたから組合契約をしたものとみなされるところ、第一審被告高橋清一は死亡により同組合から脱退し共同鉱業権者たる地位を失つたから、被控訴人高橋信子、同鈴木美記子は本件採掘権につき共同鉱業権者たる地位を承継していない。被控訴人木村潔は、昭和五一年一〇月一三日、東京通商産業局長に対し、本件採掘権につき右高橋清一の脱退の附記登録を申請し、同月一五日その旨の登録がなされた。したがつて、控訴人の被控訴人高橋信子、同鈴木美記子に対するすべての請求は失当である。

(2)  第一次的請求の原因の予備的追加に対する答弁

控訴人の前記一の(2) の主張は争う。鉱業権は国の特許行為によつて登録を条件として創設される権利であるから、時効によりこれを取得する余地はない。のみならず、控訴人は昭和三一年以降鉱業権者として権利を行使した事実はなく、昭和三三年ごろから単に被控訴人木村潔の指示のもとにその従業員として業務に従事したものにすぎない。したがつて、いずれの点よりするも控訴人が本件採掘権を時効により取得する余地はない。

(3)  控訴人の当審における新たな予備的請求の原因事実はすべて争う。

(証拠関係)〈省略〉

理由

一、訴訟承継関係

(1)  第一審被告高橋清一が昭和五〇年八月二九日死亡し、被控訴人高橋信子、同鈴木美記子において、相続により亡高橋清一の本件採掘権を除く財産に属した一切の権利義務を承継した事実は、当事者間に争いがない。

(2)  被控訴人高橋信子、同鈴木美記子は、控訴人の訴訟承継の申立てに対し、第一審被告高橋清一は死亡前被控訴人木村潔と本件採掘権につき共同鉱業権者であつたから組合契約をしたものとみなされるところ、第一審被告高橋清一は死亡により同組合から脱退し共同鉱業権者たる地位を失つたから、被控訴人高橋信子、同鈴木美記子は本件採掘権につき共同鉱業権者たる地位を承継していないと主張し、本件訴訟の承継を争うけれども、控訴人の本訴における第一審被告亡高橋清一に対する請求は、同人が控訴人に負担した本件採掘権の移転登録義務の履行を求めるものであつて、当事者間における法律関係の効果としてその移転登録義務を負担するならば、その実体関係に符合する登録を求めることができるものであるから、その移転登録の義務を負担した者が共同鉱業権者として登録されていた場合にあつても、その死亡により移転登録義務が消滅することはなく、これが義務は被相続人に属する消極的財産として相続により承継されるものと解すべきであるから、右被控訴人両名の主張は理由がない。したがつて、第一審被告亡高橋清一において控訴人主張の本件採掘権につき控訴人に対し移転登録義務があるとする本件訴訟上の地位を同被控訴人両名において相続人として当然に承継することとなる。なお、控訴人は右被控訴人両名に対し本件訴訟を受継すべく申し立てているが、本件訴訟記録によると第一審被告高橋清一にはその選任した訴訟代理人があり、同代理人において上訴の特別の委任を受けていることが明らかであるから右第一審被告高橋清一の死亡により本件訴訟手続は中断せず、訴訟手続の中断を前提とした訴訟手続受継の手続をする必要はなく、このような場合に受継の申立てのあつた場合には訴訟上の地位を当然承継した者を訴訟の当事者として判決に表示することを求める申立てとみるべく、とくにその受継の許否につき裁判をする必要はない。したがつて、右被控訴人両名を第一審被告高橋清一の訴訟承継人たる新当事者として審理判断すべきこととなる。

二、控訴人の第一次(予備的請求原因を除く。)及び第二次的請求に関する当裁判所の判断は、次につけ加えるほか、原判決理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

原判決書一二枚目裏三行目中「第一七号証の三、」の下に「第二九号証の四」を加え、同五行目から六行目にかけて「甲第一号証、第一〇、第二一号証の各一、二」を「甲第一号証(ただし、官署作成部分の成立については争いがない。)、第一〇号証の一、二、第一九号証の二のイ、ロ、第二一号証の一、二」に改め、同七行目中「第二七号証の三」の下に「のイ、ロ」を加え、同一四枚目裏三行目中「難航しているころ」を「難航しているうち」に改め、同四行目から五行目にかけて「いかなる事由によるかは明らかでないが、」を削り、同一五枚目表六行目中「いかなる理由によるかは明らかでないが」を「右出願のうち控訴人の出願についてはその許可の条件がととのわず、」に、同裏七行目中「主張するが」を「主張するところ、これが主張に沿う原審における控訴人本人尋問の結果は原審における第一審被告高橋清一本人尋問の結果に照らして措信できないし、そのほか」に改め、同一六枚目表九行目中「相当で」の下に「あり、原審における控訴人本人尋問の結果中前記認定に反する部分は措信しない。」を加え、同裏一行目中「弁論の全趣旨」を「原審における控訴人本人尋問の結果」に、同一七枚目裏八行目中「同」を「の承継人ら及び被控訴人」に、同一八枚目表三行目中「弁論の全趣旨」を「第三四号証の一、二、第三五号及び第三六号証、原審における控訴人本人尋問の結果」に改め、同一九枚目表一行目中「応じて」の下に「形式的に」を、同二行目中「第八号証の一」の下に「、第三四号証の二」を、同四行目中「第六号証の一」の下に「、第三四号証の一」を、同二一枚目裏末行中「相当である。」の下に「したがつて、前掲甲第五号証及び第六号証の各一、二、第八号証の一、二、第二六号証の一、二、第三四号証の一、二は、その記載のとおりの意思で作成されたものではないのであるから、これらをもつて控訴人の主張を認めるに足る証拠とすることはできないし、また甲第七号証、第九号証もいまだこれをもつて控訴人の主張事実を認めるに足らず、むしろ成立に争いのない甲第三五号及び第三六号証によると、本件採掘権に関し、第一審被告高橋は昭和四四年二月一日その採掘、加工、販売を控訴人に委任し、被控訴人木村は昭和三四年九月一九日その採掘販売を控訴人に承諾している事実が認められるので、本件採掘権が控訴人に属していないものとして取り扱われていた事実が認められる。」を加え、同二二枚目裏六行目中「同」を「の承継人ら及び被控訴人」に改める。

三、第一次的請求の予備的請求原因について

控訴人が本件採掘権を時効により取得したとして主張する事由は、本件試掘権の設定登録がなされた昭和二七年八月二九日以前から本件鉱区の占有を開始したというのであるが、鉱業権は国によつて賦与される権利(鉱業法二条)であつて、その賦与される以前において鉱業権が権利として成立する余地はなく、したがつて控訴人が本件鉱区を占有し未掘採鉱物を掘採、取得した事実があつたとしても、これにより鉱業権を時効によつて取得することはできないものというべきところ、一般に鉱業権が取得時効の対象となるのは、国によりある者が鉱業権を賦与された後に当該鉱業権を所有の意思をもつて占有を始めた場合にかぎられるのであつて、控訴人はこの点につき本件試掘権を所有の意思をもつて占有を開始したというけれども、本件試掘権は昭和二九年八月三〇日その存続期間の満了により消滅したことは前示認定のとおりであるから、これにより取得時効の対象となる権利を欠くにいたつたものであり、この点において控訴人の主張は理由がないのみならず、本件採掘権は昭和三一年四月九日に第一審被告高橋にその設定許可がなされたことは、これまた前示認定のとおりであつて、控訴人において本件採掘権の取得時効を主張するためには、右のように採掘権設定の許可があつた後に取得時効の要件を具備したことを主張することを要すべきところ、控訴人はこの点につき何らの主張するところがないのであるから、結局控訴人が予備的請求原因として主張する本件採掘権を時効により取得したとの主張は理由がない。

四、当審における新たな予備的請求について

共同鉱業権者のうちの一人が死亡したときは、死亡者の有していた持分は特約のないかぎり相続の目的とはならず、その共同鉱業権者は当然組合を脱退し、これが共同鉱業者の持分は残存する共同鉱業権者に帰属することとなり、その持分につき義務の負担が存する場合にはこれが残存する共同鉱業権者において義務を履行すべきこととなるとしても、そもそも死亡者が生前その持分を処分しても組合である共同鉱業権者に対抗することができず、他の共同鉱業権者の承諾のないかぎり持分処分者に代わつて共同鉱業者となることはできないのであるから、残存する共同鉱業権者に対し処分を受けた持分の移転登録を求めることはできない。のみならず控訴人は、第一審被告高橋は昭和四三年一二月をはじめとしてたびたび控訴人に対し本件採掘権を譲渡したと主張し、甲第五号及び第六号証の各一、二、第八号証の一、二、第二六号証の一、二、第三四号証の一、二には右の主張に沿う記載があるけれども、これをもつて譲渡の事実を認めるに足る証拠とすることができないことは前示説示のとおりであり、またこの点に関する原審における控訴人本人尋問の結果も右前示各証拠に照らして措信できないし、そのほか控訴人の主張事実を認めるに足る証拠はない。したがつて、被控訴人が第一審被告高橋の共同鉱業権の持分につき移転登録請求権のあることを前提にその移転登録を求める控訴人の請求は理由がない。

五、したがつて、控訴人の第一次及び第二次的請求を棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がなくこれが棄却を免がれず、また控訴人の第一次的請求に関する予備的請求原因に基づく請求及び当審における新たな予備的請求はいずれも理由がないからこれが棄却を免がれない。

よつて、本件控訴及び当審における新たな請求を棄却し、控訴費用は敗訴の当事者である控訴人に負担させることとして、主文のように判決する。

(裁判官 菅野啓蔵 舘忠彦 安井章)

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